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VOICE 49. | 2019. May | KOJI ONO

Interview&Text_Viola Kimura

 

 

今回のゲストは、丸の内ハウスでのアトリエインカーブ展を機に、本連載「VOICE」や丸の内ハウスでのイベントなど、様々な企画に携わるようになった小野光治氏。「VOICE」の撮影クルーにとっては現場を見守る父親のような存在だ。日ごろ、人やものの橋渡しをしていることが多く、肩書き不詳と言われることもあるが、本職はディレクター、グラフィックデザイナー。デザインにおいては20代に国際的な賞を取っているほどだ。彼の歩んで来た道が丸の内ハウスでの仕事にどう生きているのか、丸の内ハウスの歩みを初期から見つめ続け、ここをどのような場所と捉えているのか。今後への期待についても、話を聞いた。

 

 

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小野さんといえばあらゆるところへ登場されて、日ごろ人をつないだりされていますが、本職を知らないという人も多いようですね。広告業界が長いですが、もともと広告系の世界に入ったのはどういう経緯だったんでしょうか?

 

「僕は高校を卒業して友達の家の土建屋に勤めてて、23くらいまでやってました。たまたま広告制作会社で働いてる友達から電話があって、『ちょっと原稿運んだりするの手伝ってくれない?』って言われて。たまたま週末で予定が空いてたら手伝い始めたんです。」

 

 

そこからグラフィックデザイナーとしての仕事が始まったのですね。

 

「20代のうちは遊ぶことしか考えてなくて、デザインのことなんて真剣に考えていませんでした。ちゃんと考えるようになったのは30過ぎてからです。その前に賞をもらったりということもちょこっとしてたけど…チャラかったんじゃない?多分(笑)」

 

 

 

ずっと変わらない仕事のスタンスって何かありますか?

 

「頼まれたことに対して、一生懸命やるだけです。その繰り返しです。今は仕事で使う時間の3割くらいは相談かもしれない。お金が発生しないから仕事とも言えないかもしれないけどね(笑)」

 

 

 

小野さんと言えば、多様な方と繋がりを持っていますよね。

 

「結果的に、運良く幅広い人たちと関係を持てる環境にいるので、それはすごく恵まれていることだなと思っています。一部上場企業の社長さんの仲良しもいれば、三重県の18歳の写真家を目指している女の子とも仲良くしているし」

 

 

 

丸の内ハウスで展示したアトリエインカーブのプロジェクトも、そんな繋がりが発展したのですね。

 

「アトリエインカーブへは昔から2、3ヶ月に一度は遊びに行ったり、代表の今中さんが東京へ来ている時に会ったりしていますね。丸の内ハウスへはオープニングの際に呼んでいただいて、それからはいち客として時々来ていました。それでアトリエインカーブが展示場所を探している時に一番に思い浮かんで」

 

 

 

丸の内ハウスという場所にはどんな良さがあると思いますか?

 

「このフロアに『共有スペース』ってあるじゃない。それってすごく曖昧なもの。余白の部分があるからこその居心地の良さ、というのはすごく実感していますね。
今の時代って、曖昧なものを無くしていく流れだと思うんだけど、そこであえてこのスペースを作ってるんですよね。こうした飲食のフロアでも、見方によってはこうして通路で食事しているというのはすごく迷惑なことだと思う。衛生上良くない、邪魔だ、という人もいるかもしれない。でもそういうものがあるからこそ、人にちゃんと気を遣ったり、遠慮したり。そうした気持ちが生まれてくるような気がします。
グレーゾーン、曖昧なところ、というのは実は生活する上ではすごく必要なことなんだと思います。丸の内ハウスでいうと共有の部分。普通の廊下でご飯を食べるから、歩き方を考えたりとか。何かしらの行動が迷惑になりうるからこそ人を気遣える。そんなことが生まれるから、個人的にはこのスペースがすごく重要だと思ってるんです」

 

 

 

この「VOICE」では丸の内の街についてもインタビューを重ねてきましたが、街についても同じことが言えるのでしょうか。

 

「昔は街なかにも余白があったからこそ商店街も活発だったし、時にはその余白へはみ出しちゃう人たちもいた。でもそれを排除するんじゃなくて、みんなで使う場所だったからこそ、そこへの思いやりや優しさが生まれていたような気がする。だから昔のそういう空気が残っている場所だとみんなすごく挨拶もするし、いい感じのコミュニティが出来上がってると思います」

 

 

 

 

 

 

丸の内ハウスでいうと、具体的にはどんな場面が面白さだと思いますか。

 

「このフロアのオーナーの皆さんはじめ、スタッフの方々が本当によく考えてくださってるんですよね。たとえば、この共用スペースに座ったお客さんに対してどう対応していくのか、とか。お店の枠を超えて連携して話し合っているんですよね。ここへ座ったお客さんに対してはすべてのお店のスタッフが『いらっしゃいませ』という気持ちを持っているはずです」

 

 

 

本来であればお店も競合関係にあるはずなのに。

 

「そうそう。本当は全然効率的なことではないんだけどね。でも合理的な『思いやり』とか『優しさ』って、ないじゃん。絶対に。そういう中から生まれてくる感情でもないし。だからその点で丸の内ハウスにこういう場所があってよかったなって思うし、丸の内の街のなかにもそういうところをもっと作ってもらえたら良いなと思います。曖昧な場所を。みんなが気を遣って、優しくなれる場所を」

 

 

 

VOICEへ呼んでいる方々への声かけなどを見ていて、小野さんがすごく人をよく見ていらして、皆さんにとってのこのインタビューの機会が良いものになるよう考えているのが伝わってきました。例えば、MEGさんで言えば渡英される直前の節目のタイミングでお声かけしていたり。

 

「丸の内ハウス単体でインタビュアーとどんな関係性を生むか、というよりも、こうした取材の機会を通して『東京』や『丸の内』といった街を考えてみるきっかけになったら良いなとは思ってましたね。改めて、『ああそういえばあまり来ない場所だな』でもいいし『好きなんです』でもいいし」

 

 

 

そんなVOICEも次で50回を迎えますが、このインタビュー連載が今後どんな財産になっていったら良いと思いますか?

 

「これをまとめた時に、小さなきっかけであっても、読んだ人にとって街のことを考えるきっかけになってもいいなと思います」

 

 

 

この場所はどうなっていったら良いと思いますか。

 

「これまで以上に居心地よくなっていったら良いと思います。それを手がけるのはもちろんここを仕掛けている皆さんの力が大きいけれど、最終的に居心地の良さを決めるのはここへくるお客さんたち。だからそのお客さんたちが感じる『居心地の良さ』を、もっと進化させて欲しいですよね。単なる商業施設や飲食街としての、美味しいとか、便利、というだけではない、その先が生まれていったら面白いなと思います」

 

 

 

商業施設ではどうしても有機的なものは生まれにくいですからね。

 

「どうしても経済的なものが伴うと難しい。今の経済の世界では結果を出していかなくてはいけないから、そのためには合理的、効率的な考え方で進んでいったほうが、早く正確にたどり着く…でもそれって思い込みだよね、多分」

 

 

 

そうした思い込みに、もしかしたら気づきにくいかもしれない街で、丸の内ハウスがあるのは意義あることかもしれませんね。

 

「でもサラリーマンの人たちも、ひとくくりにサラリーマンと呼ばれているけれど、一人ひとり見ていくと色々な感情を持っている人がいて、タイプは違うかもしれない。色々な優しさや集合体を持った人たちでしかない。だからあまりサラリーマンとかOLとか括らないで、もう少し情緒的なことも汲み取っていけるようなフロアになったら良いなとも思いますね」

 

 

 

話題をご自分から周りに転換していくところも小野さんらしいですね(笑)。ありがとうございました。

 

 

 

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小野光治(おのこうじ)

1957年東京都出身。ダイアモンドヘッズのディレクターなどを務め、会社のブランディングや商品開発など、多岐にわたり活躍する。

 

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