Text_Viola Kimura
今回のゲストには「MUS MUS」「来夢来人」「TIKI BAR TOKYO (3/24〜「現バー」)」のオーナー佐藤俊博氏を迎えた。70年代より「ツバキハウス」「GOLD」をはじめとする数多くのディスコを手がけ、“伝説のプロデューサー”としての顔が広く知られる彼。実は、丸の内ハウスの立ち上げ当初から、現在の運営においても重要な役割を果たしている。時代を牽引する場を生み出し続けてきた彼の目に、今の時代はどう映っているのか? 丸の内という街で店を手がけることの意義をどう捉えているのか。今年、丸の内ハウス10周年を迎えるこの節目に話を聞いた。
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今や“伝説”と称されるディスコなどを手がけた佐藤さんですが、どんな経緯で丸の内ハウスに関わることになったのでしょうか。
「もともとまちづくりの文脈でお話をいただきました。10年前はビジネス街でしかなかった丸の内で、“飲食店が街をどう変えていけるかを提案する”というミッションでした。丸の内でコミュニティを築いていくならば、働いている人々が新しく出会うような場を提供すべきだと考えました」
丸の内へ関わりはじめた当時はどんなことを感じましたか?
「正直に話すと当初はあまり興味がなかったんです(笑)。あまり群れるのが好きじゃなくて、自分がやりたいことを好きな場所でやりたいというタイプだったので。しかし“新しい街をつくる”という響きには惹かれるものがありました。とても歴史深い街でありながら、商業的には何も根付いていなかった丸の内に、非常に大きな可能性を感じて携わらせていただくことに」
それまでのお仕事とは街のムードも客層も違ったかと思います。実際にスタートしてみていかがでしたか?
「基本的にはどの街においてもやることは同じですから、あまり違和感はありませんでした。芝浦や青山、恵比寿、六本木などで仕事をやらせていただいてきましたが、どんな街でも地元の皆さんに支持されないといけません。新しくコミュニティをつくっていくには、彼らと協力しながら新しい人々との交わりを生み出していかなくてはなりません。ここに来るお客さまのなかには、芝浦や六本木で遊んでいたような方々もいます」
数々の商業施設をプロデュースされていますが、丸の内ハウスの特徴はどういったところだとお考えですか。
「我々が関わるまちづくりにおいては、街に求められる飲食店をつくることだけでなく、そこから生まれる変化にも大きな役割があるんですね。丸の内ハウスは異なる飲食店の集合体。複数の個性が集まり、連携しているところが特徴でしょう。各店舗の店長が集まってコミュニケーションを取り、一方で運営事務局や玉田マネージャーが動いている。現場のそうした体制がよく働いていると感じています」
なるほど。現場以外にも対応できる体制ということでしょうか。運営において、どういった側面を重視されているのでしょうか。
「施設もお店も生きものと同じなんです。人でお店は変わるし、そこで起きる物事によって人も街も変わっていく。そういう意味で丸の内ハウスのフロアは重要だと思います。そうした考えに基づいて運営しています」
VOICEインタビューではあらゆる方から丸の内ハウスの運営体制が素晴らしいと聞いています。その仕組みがうまくいっている理由は何でしょうか。
「店長会はもちろんですが、現場のスタッフ同士が町内会のように仲良くコミュニケーションをとって相談しあったりと助け合っています。彼らはそれぞれの会社の上の都合には引っ張られずに一丸となっていますね。それが他の飲食店フロアになかなかない部分だと思います。新しいことにチャレンジしていくには問題や試行錯誤しなくてはならない場面が多くありますが、そこは現場のスタッフたちが意識を高くやっているのが大きいのだと思います」
佐藤さんがオーナーを務める3店舗は、いずれも毛色が異なりますよね。
「MUS MUSは食堂がコンセプト。街のなかで家庭に替わる食事の場、そして人々のたまり場になれば、という思いでスタートしました。来夢来人は、日本に根付いているスナック文化を体現した、ひとりでもふらりと立ち寄れるような場をつくりたいということで。いわゆるスナックではなく女性専用ではじめました。企業のなかでも女性が重要な場所に就いていながら、外で彼女たちが中心となって遊べる場所がなかなかありませんよね。ミッツ・マングローブにママとして立ってもらっています。」
現在の大人の遊び場について、思うことはございますか?
「年齢層や客層を越えて混ざり合うということがとても大事です。そこから新しい文化が生まれていきます。若い人同士、大人同士は飲みにいきますが、なかなか年齢層の違う者同士が出会うことがないので、運営において工夫するようにはしています」
世代を超えて交わることの重要性。その考え方はどこで醸成されたものなのでしょうか?
「昔から誰かが場をつくらなければ年齢が離れた人と飲むなんてことはできませんでしたが、そんななかでも僕自身が20代のころに40代、50代の大人たちに遊びを教えてもらったことが大きかったですね」
ミッツ・マングローブさんもVOICEのインタビューで丸の内ハウスの楽しみかたについてお話くださいましたが、佐藤さんがこのフロアの遊びかたをレコメンドするとしたら、どういった部分を強調なさいますか。
「そうですね。色々な出会いを求めて来ていただけば。今ここへいらっしゃるお客さまの多くにとっては、ここで誰に会えるか、という要素がキーになっていると思います。我々もそうした動機付けを意識して提供できるように心がけています」
そうですね。佐藤さんご自身が人と人を繋いでいる場面をよくお見かけします。
「今の若者たちはスマートフォンに見入ったままで、顔と顔を合わせて会話する機会が減ってしまいましたよね。ここへ来たら一旦そういう世界からは離れて人と触れ合ってみていただきたいです。テクノロジーは非常に便利ではありますが、それをコミュニケーションのツールにしてしまってはいけませんよね」
来るかたにとっての“動機”の設計はどのように?
「その場その場で、お一人おひとりと関わらないとわからないですよね。そのコミュニケーションは現場のスタッフがよくやってくれています」
丸の内ハウス全体での取り組みも多いですよね。?
「MUS MUSを通じて直接各地の生産者の方々とお話すると、環境や流通の問題、後継者の問題など色々なことがわかってきます。それらを受けて、店舗の取り組みに加え、丸の内ハウス全体の企画を立てれば出来ることの幅が広がります。さらに三菱地所のさまざまな部門と連携することで、企業と地方を繋ぐこともできます。ただ飲食店だからフードとドリンクを出すだけでなく、このフロアがあるからこそ実現出来ることを進めていきたいと意識しています」
そういう意味ではフェアを展開しているMUS MUSの果たす役割や影響力は大きいですね。
「説明出来るものを提供することがとても大事だと思うのです。ですからMUS MUSは生産者との直接契約で生産者主導の店にしています。また、文化的な面でも役割を担っていると考えています。今はスーパーマーケットへ行けば一年中どんな食材も手に入れることができます。ですが、日本は四季の変化に富んだ国なのですから、季節のものを大事にすること、そして日本について知ることはとても大切だと思うのです。私自身、海外で日本について聞かれてもなかなか答えられなかったことがあります。そうした実体験もあって、MUS MUSでは季節の食材と日本の文化を大切にしているんです」