Text_Viola Kimura
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経済合理性と復興への貢献という点はどのようにお考えだったんでしょうか。
「とにかく人が元気になるように、というところを重視しています。僕は仙台でいつも立ち寄るラーメン屋があるんですが、そこは被災直後に商店街で唯一営業していたんです。『麺はありませんがスープはあります』と言って、100人以上もの人が並んで大切にそのスープを飲んでいました。そうしたあたたかさを提供できる店であることが、僕にとって最も重要なところです。
自分たちの店がみなさんの止まり木になるようなお店でありたいと思ってこれまでやってきたし、これからもそうありたいと考えています。
僕は実家が商売をやっていたので、家がたまり場だったんです。僕は家の長だったので、集まったみんなをいつも楽しませようと心がけていました。みんなでたわいのないことをやりながら、みんなが我が家にくると楽しいと言ってもらえるのが嬉しくて。今、その感覚でレストランをやっていて、この店も自分の『家』だと思っているんです。
そうした信念を持ちながら飲食業をやっていくのはもちろん簡単ではありません。しかし、あらゆるリスクがあったとしても、レストランが持っている可能性に懸けたいんです。面白いものをつくれば、それが目的地となって、みなさんが目指してきてくれる。僕たちの提案に共感してもらって、みなさんで育てていけるような場を作っていけたら良いなと考えています。チェーン業態のような飲食店のあり方はもうあり得ない。その土地で息をして、そこに暮らす人たちと一緒に作っていくような店が、今求められていると思います。レストランができるぎりぎりのところを攻めて、少しでも社会に貢献していければ、と思っています」
そうしたスピリットが、会社全体にも広がっているのですね。
「僕のDNAを受け継いでいると言えるスタッフが何人もいます。話し方からファッションの好みまで似てきていて。
現場のスタッフは、ルーティーンワークで毎日同じフライパンを振って、お客さまに『いらっしゃいませ』『ありがとうございました』と言い続けています。丸の内店には毎日2000人位いらっしゃるので、朝から晩までやっていると2000回以上同じことを言うわけです。そんな中でも自分を見失わずにいるには、組織にパッションやビジョンがあることが重要になってきます。毎日が同じようでも、同じ日は一日としてないんです。怒られたり褒められたりお客さまに感謝されたり、毎日色々なことが起こります。その先を見つめられるかどうかで仕事への向き合い方が変わってきます。良い働きを提供できるようになると、仲間やお客さまに『ありがとう』と言われるようになる。感謝してもらいながらお給料を受け取れる仕事なんてそんなにありません。飲食店はそうした信念を持たなくてはいけませんね」
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新川義弘(しんかわよしひろ)
1963年生まれ。株式会社HUGE代表取締役社長。1982年、福島商業高校卒業後、新宿東京会館(現・ダイナック)入社。1984年、長谷川実業(現・グローバルダイニング)入社。1988年、同社取締役に就任。『グローバルのサービスの確立者』とも言われ、ナンバー2として1999年東証2部上場など、同社が日本の外食の代表企業へと躍進するステップに大きく貢献する。2002年同社取締役最高執行責任者に就任し、日米首脳会議の際、米国ブッシュ大統領と小泉首相を接客して「サービスの神様」 と称される。2005年、同社を退職し、株式会社HUGE(ヒュージ)を立ち上げる。銀座の「ダズル」吉祥寺の「カフェ・リゴレット」をはじめ個性的なレストランを次々とオープン。主な著書に『愛されるサービス』『愛される接客 サービスの質を向上させる52のセオリー』など。
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