Text_Viola Kimura
今回のゲストは、日本料理の料理人である笹岡隆次氏。恵比寿「天現寺 笹岡」、新丸ビル5階「恵比寿 笹岡」のオーナーシェフとして日本の伝統を伝えながら、企業とのメニューの共同開発や、テレビ、雑誌への出演などで活躍するほか、「丸の内シェフズクラブ」などを通じた食育の活動も行っている。2015年夏に丸の内ハウスで行われたイベントSHISEIDOアルティミューンラウンジ「SO HAPPY」では女性向けのメニューを考案。師が北大路魯山人の孫弟子だったことからその伝統を受け継ぐ料理人としても注目されるが、それ以上に彼自身の仕事への思い入れや、上品でありながらチャーミングな人柄を感じさせる料理が人気を集めているようだ。保守的と言われる日本料理の世界のなかで、ジャンルを越えた人や土地との繋がりをどのように築いているのか、丸の内に店舗を構え活動することの醍醐味は何なのか、話を聞いた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
昨年丸の内ハウスで行われたSHISEIDO アルティミューンラウンジ“SO HAPPY”は、フード・アート・ミュージック…と五感で体験するポップアップラウンジ。音楽は☆Taku Takahashi氏、アートは曽谷 朝絵氏、空間デザインは谷尻誠氏と吉田愛氏が、そしてプロデュースを山本宇一氏が手がけました。
当日のメニューコーディネートは、笹岡さんが考案されたそうですね。
「はい、『免疫力アップ』というテーマでお料理を考えさせていただきました。美容液の発売記念イベントだったんですが、食べて、聞いて、美容液を肌につけて、五感全部で綺麗になる、というコンセプトで面白かったですね」
広尾の「天現寺 笹岡」に続き、新丸ビル5階に「恵比寿 笹岡」をオープンされていますが、それぞれどのようなコンセプトのお店なんでしょうか?
「本店は恵比寿と広尾の間のあたりでやらせていただいています。常連のお客さまが多いです。丸の内でお話をいただいたときは、若い方も利用していただけるように、ということで考えさせていただきました。赤坂の料亭で料理長をしていた頃から、お年を召したお客さまにベーシックな和食をお出ししていましたが、広尾の本店は、そういったお客さまにお料理を静かに召し上がっていただけるように、ということで探した場所です。
丸の内の店舗は来年で10年になります。本店で典型的な基本の和食をお出ししている一方で、丸の内では若い方に向けてちょっと変わったものを作っています。お魚料理であれば、本店で塩焼きや西京焼をお出ししていますが、丸の内ではただの塩焼きでは面白くないので、ちょっと違う食材と合わせて…例えば、明太子をつけて焼いたり。卵料理であれば、卵と菜の花とを混ぜておいて、それを一緒に焼いたりとか。ひと工夫して見た目にも楽しんでいただけるようにしています」
2店舗目をオープンされてからは「丸の内シェフズクラブ」で食育の活動もされていますね。
「日本料理のほかに、フランス料理、イタリア料理、中華料理など、ジャンルが違う丸の内のシェフ達が集まっているんですが、皆さんとても研究熱心で、生真面目ないい人です。主にイベントや催し、メニュー開発などの活動をしていますが、なかでもいろいろな生産地を回る、という活動が面白いです。山梨や、遠いところだと北海道の羅臼(らうす)や江別に行ったりしています。羅臼はイクラや海老など、皆さんがお好きな海のものが有名です。江別は内陸で、お肉や野菜など土もの系が。江別はびっくりするくらい自給率が高くて、大豆が採れて小麦が採れるから何でも作れるんですよ。酪農も盛んですね。
僕たちシェフが産地に行って面白いところを見させてもらって、その食材を丸の内で出させていただいています。その時に生産者の方々にお世話になったシェフの多くが、今でも江別の食材を使っています。新丸ビルの地下に、江別市で酪農されている方が『町村農場』というお店を出されていますが、あそこのプリンやバター、チーズなんかは美味しくて良いですよ。
これまで、知り合い経由で生産者を訪れることはありましたが、こんなに色々なところに行けるようになったのは丸の内シェフズクラブの活動を始めてからです。本当に濃密なスケジュールで色々な生産者の方のところへ行かせていただけるんですよ。今年買ったから来年も買わせていただくよ、となると生産者の方もこちらも嬉しいですよね。この活動を通じて僕たちだけじゃなく、生産者の方々の輪が広がっているのも面白いなと思っています」