プロジェクトに参加する意義
シモーネ:それではシーズンのコレクションを企画する手順を紹介しましょう。ファッションの人達が一堂に会する、年に二回の重要な機会がありますが、栗野さんとはその時大抵、パリかミラノで会います。栗野さんの次のコレクションのために提案できるすべての素材、生地、メタルやビーズ、またこういう縫製やカッティングができますなど、スキルの資料も用意します。ハイチやアフリカでかき集めるのですが、栗野さんはその辺り厳しくて、美しいものだけを見たい、となるので仕事は大変です。集めたものを提示し、新製品をどう作ろうかというのを、栗野さん達と私達で何時間も、価格の市場性や製品化の可能性などについて喧々諤々します。栗野さんのOKがあれば、生産者の所に行き、サンプルを開発します。このサンプルは重要ですべての製品の母になります。それを栗野さんにお見せすると、グッド!という時も、もう少し、という時もある。そうなればつくり直しです。そして「シモーネさん、これだけコレクションが揃ったけれど、果たして何人の雇用ができ、どの位の仕事をつくることができて、どれだけ社会に還元できたのか」と質問されるので、データを見せます。これでOKとなれば製品を発注します。栗野さんはデザイナーでもありディストリビュータでもあるので、複雑なプロセスですが、やり易いところがあります。
栗野:シモ―ネさんがいうほどシビアなプロセスではないですよ。この仕事の何が楽しいかというと、生地を織っている人たち、ビーズを作っている人たちに直接会えること、さらに今ファッション業界が抱えている色々な問題を解決する糸口がつかめるということ。問題は、半年でものが流行遅れになったり、1年でブランドが消えたり、サイクルが早すぎることです。35年この業界にいますが、失望することも若干ある。でも物を作るプロセスや人に会うプロセスがこんなに楽しいのは久しぶり。この活動を通じてわかったのは、時間がかかることは価値があるということです。例えばラフ・シモンズがディオールのオートクチュールのアトリエでやっていることと、時間の概念が同じなんです。長い時間をかけて服が作られるプロセスと、ステラの縞のファブリックが織られる時間は、同等に貴重だということなんです。だから何かを早く作って早く世の中に出して早く売って、早く儲けようという話と対極の動きで、恐らくアンファストファッションと言えるものなのです。