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SPECIAL TALK
リストランテミヤモト・宮本けんしん × レストランジャーナリスト犬養裕美子

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熊本の魅力を伝える10日間「くまもとの旬の味、いただきます」I:熊本はイタリアでいうと、どこに似ていますか?

 

M:シチリアですかね。火山もありますしね。

 

I:人の気質も近いですか?

 

M:明るくて朗らかであったかくて。似ているかもしれませんね。

 

I:いいとこだらけですね。日本のシチリア。昨年の12月にユネスコの世界無形遺産に和食が認定されましたが、それよりも前に世界農業遺産を熊本は認定されましたよね?宮本さんがその立役者と伺ったのですが。

 

M:世界農業遺産は、最近耳にするとか初めて聞いたという方が多いかと思うのですが、ユネスコと同じ国連の機関でFAO(世界食糧農業機関)が2002年に食料危機などを救うために設立された機関。後進国だけだと世界的な広がりを見せないので、2、3年前に初めて日本の佐渡と能登が認定されたというのを、たまたまニュースで見たんです。それからいろいろ調べたら非常に面白くて。先ほど少し熊本の自然の特徴とか阿蘇の自然のお話をしましたが、草原は自然にできると思われがちなのですが、阿蘇の草原、実は人工的に作られた草原で、だいたい2万4千ヘクタールほど。日本では雨がよく降るので、草原を維持するのは難しいといわれているんです。放っておくと森林になってしまうので、毎年阿蘇では山を焼いているんです。これを野焼きといいます。それで毎年草原を新しいものにしていっている。なぜ草原にするのかというと、この草を利用するんです。この草を使って堆肥を作ったり、牛や馬を放したり、家の建築資材にしたり、そういうことを元来の日本では行われていた、それが未だに阿蘇には残っている。阿蘇より大きい草原は世界中たくさんありますが、人工的に作られた草原の中では阿蘇の草原が世界最大。また阿蘇山は活火山で、最近も噴火したんですが、その周りが水田地帯なんです。そんな危険なところで何千年も米や野菜を作ったりしている、普通人が住まないようなところで5万人もの人が生活をしているんです。

 

I:すごいですね!

 

M:イタリア人からしたらエトナ火山のふもとで生活するようなもの。そんなの信じられないと驚かれます。阿蘇に旅行に行って温泉に入ってというのは僕らからするとすごく当たり前のことだけど、実はすごいこと。火山灰土壌だからだいたい食物は育たないけれど、何千年もかけて土壌改良もして、今では阿蘇のこしひかりは、日本の3大こしひかりにまで成長しています。人間は食べていくために、ものすごい努力をする、過酷な状況でも人間は住むところを変えないんですよね。どうやってそこで生きていけるかを考える。そんな人間の知恵が、世界農業遺産になったんです。

 

I:世界農業遺産に選ばれるために宮本さんはどのようなことをされたんですか?

 

M:誰に会わないといけないのかとか、どんな活動をしなければならないのかというのを徹底的に勉強をして、たまたま地元の新聞でそれを書かせてもらったんです。ちょうど料理マスターズをいただいた後くらいですね。それから国連大学の副学長の竹内先生が世界農業遺産のキーパーソンだということを知って、それから自分の思いのたけを書いてメールを送ったら、その日のうちにお返事をいただいたりと、好感触を持っていただけて。それから熊本県知事に会いに行ったこともありました。

 

I:宮本さんの行動が大きく影響しているということですよね?

 

M:これだけ農作物が豊かなのに、農家さんたちが元気ないなっていうのを感じていたんです。

 

I:それありますよね。何か一つ認められているものがあると、がらっと変わりますもんね。

 

M:そうですね、全部買うことはできないから、何か自分のアイディアと努力で元気になるような誇りになるようなことができないかなと思っていた時に世界農業遺産を知ったので、これしかないと思いました。

 

I:最初から世界を目指したところが、すごいと思います。いろんな賞がありますから、何かそこに目をつけるというのはすごく大事なこと。世界に出て行く、誰かに何かを知ってもらうということを、いろんな形で認めてもらえる賞が用意されている。だれでも賞がもらえるかもしれないと思えば、そこで行動を起こすということがすごく大きいですよね。

 

M:僕が面白いなと思ったのは、料理マスターズをいただいた時に何が変わったかというと、自分としては昔も今もやっていることは変わらないんです。いつものように畑に行って生産者の方々と話をして新しい食材を作ったりとか、美味しくなるように研究をしたりとか。でも賞をいただくと皆さんの見てくれる目が変わるんです。自分たちの地域や農作物はすごいんだと思うきっかけになるんですよね。日本には阿蘇を含めて全部で5カ所世界農業遺産に認定されている所があります。こういうすばらしいところが日本にはたくさんある。本当はとてもすごいことなんだよと再認識するきっかけになればいいなと。

 

I:地方にいる人たちは、そこの中にいるので、気がつかないことが多いんですけど、すばらしいものがたくさんあるんですよね。こうやって熊本が世界に出て行ったり、認めてもらうということが経済効果をもたらしたり、まわりを巻き込んでいくという現象が面白いですよね。

 

M:僕も最近では熊本で、みやモンなんていわれてますよ(笑)

 

 

熊本の魅力を伝える10日間「くまもとの旬の味、いただきます」

 

 

高橋(以下、T):世界中飛び回られている犬養さんですが、熊本の食材についてはどのようなイメージをお持ちですか?

 

I:今回は、赤をテーマに食材をピックアップしていますが、赤だけじゃない。苦みの良さも実はいっぱいあるんですよね。季節によっても違いますし、1年を通していろんな食材がでてくるというところが地元の人たちは当たり前と思っているけれども、私たちはすごく恵まれている。宮本さんのところのメニューもそうですし、料理マスターズで色々資料を見せてもらったときにこれがあたり前にでてくるということがすばらしいなと思いました。九州の、特に熊本にはあまり詳しくなかったのですが、すごくポテンシャルの高い土地なんですね。宮本さんだけでなく、一般の生産者の方々が広めていってもらえたらいいなと思いました。

 

 

熊本の魅力を伝える10日間「くまもとの旬の味、いただきます」T:みなさま何かお二人に聞いてみたいことはありますか?

 

一般客:宮本さんがおすすめする熊本にしかない一押しのローカルの食材は何ですか?

 

M:伝統野菜、在来野菜が最近見直されてきていて、これこそ地元に行かないと食べれない。例えば阿蘇の岳の湯温泉で育てられている「黒菜」という葉野菜で、200年以上はある野菜と言われていますが、なんと豪雪地帯の阿蘇の小国地域で露地で葉物なんて普通は信じられない。僕は日本で一番ミステリアスな野菜だと思っています(笑)。東京の料理人さんを連れて行くとみなさん発狂するんです。何故できるかというと、そこはいたるところから蒸気がでていています。冬、寒くてマイナスの気温で、その辺の路地で葉野菜が育つなんてあり得ないと言われている場所なんですが、ただここは地熱が42度くらいある。雪が降ってもすぐ解けて、その気温差で野菜が甘くなってくる。こういうのがそこに行かないと食べられないという魅力。赤い食材は日本中どこでも食べられますが、これは食べられない。こういうのを食文化として残していくことで、郷土料理も残っていきます。こういう食材が日本中にはまだまだありますし、熊本には特にそういった食材が多いですね。

 

一般客:このお野菜を使ったおすすめのお料理は何ですか?

 

M:通常メニューは、食材が届いてから決めるんですが、伝統料理の一つに、この葉野菜と一緒に鶏を入れて蒸す料理があるんです。僕も同じように天草大王を蒸して、オリーブオイルでシンプルに味付けするようにします。葉の味が濃くておいしいですよ。

 

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丸の内ハウス各店舗では、あか牛・赤なす・トマト・真鯛を始めとするくまもとの赤い食材を使ったオリジナルメニューを考案。この日もいろいろな店のメニューを食べ歩く方やイベント期間中、数回来ている方などでフロアー全体が「くまもとの赤」で賑わっていた。

 

 

 

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熊本の魅力を伝える10日間「くまもとの旬の味、いただきます」

 

 

 

 

 

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