SPECIAL TALK
リストランテミヤモト・宮本けんしん × レストランジャーナリスト犬養裕美子
隔月誌『Discover Japan』で連載中の人気企画「ニッポンの旬の味、いただきます!」。その特別編として、司会をディスカバージャパン編集長の高橋氏が務め、熊本の“赤い食材”をテーマに、熊本の名店「リストランテ・ミヤモト」のオーナーシェフである宮本けんしん氏とレストランジャーナリスト・犬養裕美子氏が「まうごつうまか! くまもとの赤」のスペシャルトークショーを開催。「いちご」や「トマト」、世界農業遺産にも認定された阿蘇の草原で育まれた「あか牛」といった熊本の“赤い食材”をテーマに、熊本の美味しいお話が繰り広げられた。
犬養(以下、I):今の時期、熊本の食材で何がいちばん美味しいですか?
宮本(以下、M):そうですね、やっぱりいちごとか車エビ、あか牛、トマト。熊本は、赤い食材が美味しいというのは、熊本が火の国といわれていることもあるんです。なぜかというと、火の国は熊本の肥後の国を指しており、その昔は熊本をおさめていた火君(ひのきみ)という豪族たちがいた。それから火の国といわれるようになったという伝えもあるんです。熊本は火にまつわるお祭りも多いんですよ。
I:そんな火の国という呼ばれから生活の中に赤が何かしら見え隠れするんですね。食材の中で赤は、夏を意味することが多いのですが、熊本には冬でもおいしいものがたくさんあるんですね。
M:ちょうど今の時期だとトマトですね。みなさんがこの時期よく食べられているトマトは熊本産が多いと思います。
I:そうなんですね。あと九州で有名なところでは、やっぱり「あまおう」?
M:熊本は、熊本で作られた品種の「ひのしずく」とか「とよのか」。最近では、「桃薫(とうくん)」という、桃の香りがするイチゴがあるんです。2日しかその香りがもたないので、その2日間のうちに料理をしてしまうんです。
I:お料理に使われるんですね!
M:デザートにも使うんですけど、お料理にも使えるんです。お魚料理なんかによく使うことがあります。
I:フルーツとお魚料理ってよく合うんですよね。
M:最近阿蘇の高校生たちが作った、白いいちごも人気です。とにかく熊本というところは赤い食材はもちろん、一年中何でも採れるというのが特徴です。そういう不思議な所でもあるんですよね。
I:宮本さんは料理マスターズを最年少で受賞されています。料理マスターズとは生産者と連携して、その土地の食材をアピールすることに尽力している料理人を表彰する制度です。審査員をしていて感じたのは、西の方があまりにも豊かなので、いい食材があることが当たり前。料理人の方も生産者の方も声高には言わないんです、つまり応募がない。宮本さんだけですよ。応募してくるのは(笑)なんていうのは嘘ですけどね。熊本のみなさんは、非常に大らかですよね。
M:野菜が美味しいのはあたり前なんです。でも料理としての美味しさはすごく考えるんです。魚もいろんな種類の魚が獲れますしね。僕は数年前にあることに気づいたのですが、熊本は不思議なところで、天草に行くと珊瑚礁があって熱帯で食べられるような魚がいる。ところがブリやサバといった北の魚も食べられる。八代や水俣は温暖な気候なので、いろんな種類の柑橘が食べられる。阿蘇は、北国の気候であり、草原などの大自然にあふれている。日本の様々な生態系が凝縮された所、それが熊本なのかなと思うことがあるんです。その時に、熊本の自然を表すような「産地の料理人」になろうと思ったんです。
I:リストランテ・ミヤモトというのは、地元の食材を知ってスタートしたんですね?
M:そうですね。年に何度か東京でディナー会をさせていただくのですが、熊本に来られたらもっと美味しいものにしますということをお話します(笑)。熊本に来てもらったら、毎日毎朝生産者の方から届く野菜を使ってお料理を作ります。
I:それはその日の朝採れたものですか?
M:実は野菜って朝採れたからいいわけではないんですよ。僕はだいたい前の日の夕方に採ってもらうことが多いです。
I:時間指定ができるんですね(笑)。野菜によって朝の方がいいものと前日の夕方がいいものとあると思うのですが。
M:葉ものは夕方採った方がいいんです。
I:それはどんな風に変わるんですか?
M:朝は水分が多く、その分養分も多い。そうすると甘すぎたり、苦みが出たりする。それが日が沈むにつれてちょうど良く、水分も抜けて、野菜がちょうどいい本来の味になるんです。だから朝採り野菜がいいかっていうとそうとは限らないんですよね。
I:トマトもそうですか?
M:うちのお店で使うものは完熟させたものを採ってもらっていますが、一般的に流通しているものは、ちょっと早めに採って、届く時にちゃんと甘い状態になるようにしていると思います。しかし僕のお店は、本当に樹で熟した摘みたての野菜を使っているんです。
I:みなさんいろいろな所でお食事されると思うので、気がつくと思うんですが、トマトって本当に違いがわかりやすいんですよね。完熟しているか、していないか。私も時々畑に行かせていただくのですが、畑の隅の方にトマトがおいてあって、聞くと完熟してしまっているので、美味しいんだけど出せないっていう話を聞くことがあるんです。なんで?って聞くと、出荷をする前に完熟してしまったものは消費者の手に渡るときはもうピークを過ぎているから価値がない、とおっしゃる。先ほど宮本さんがお話していたとおりなんですよね。でも味は絶対に美味しいんです。完熟トマトでソースを作ったりしたら最高に美味しいものができますよね。すごくもったいないなって思ってしまいます。
M:形が悪いとか柔らかくなったものも全然食べられる。むしろすごくいい状態。でもそれを市場に出すと価値が下がってしまう。箱代とか輸送費の方が高くついてしまう。僕はそういうものを集めることからスタートしたんです。
I:やっぱり食材を大事にする、無駄をなくすことから始めないといけないですよね。
M:イタリアにいた時に、そういうことをすごく学びました。
熊本の魅力を伝える10日間「くまもとの旬の味、いただきます」