TALK EVENT 小林エリカ×若木信吾
国内外で活躍する4名の女性クリエイターによる、「宇宙の旅」をテーマにした、エキシビジョンを開催。今回「HALF LIFE=半減期」をテーマに作品を製作した小林エリカさんと、一緒に作品制作を行うなど公私ともに親交のある写真家の若木信吾さんのトークイベントが開催された。
山本宇一(以下、山本):今日は、今回のエキシビジョンに参画していただいた、小林エリカさんと、ご一緒に制作活動などを行っている写真家の若木信吾さんにお越しいただきました。お二人は、これまでどのような作品を一緒に作られてきたのでしょうか?
若木信吾(以下、若木):昨年、浜松にある僕の店『BOOKS AND PRINTS』という書店で、小林エリカさんの展覧会とトークイベントを開催させていただいて以来、色々とご一緒する機会が増えましたね。
小林エリカ(以下、小林):実は、今日のトークイベントは、私から若木さんをリクエストさせていただいたんです。本当に、『BOOKS AND PRINTS』でのイベントがきっかけで、この一年で、いくつかコラボレーションをさせていただきました。
若木:曲に連動して歌詞をつけるというリリックビデオを、ミュージックビデオみたいなものなのですが、UKのアーティストFINKと一緒に製作しました。僕の写真をスライドショーにして、彼の歌詞の日本語訳を、小林さんに手描きでかいてもらって写真のうえにのせるというものでした。
小林:もう一つが、映画『ホットロード』の公開に合わせて、日本テレビの「ZIP」で、作品とコラボレーションした二分ずつのショートムービーを製作しましたね。脚本を私が書き、監督と撮影を若木さんに。主演は能年玲奈さんで作りました。
若木:現場もホットロードと同じ場所でしたが、内容は全く違うもの。急なお願いでしたが、あっという間にすばらしい作品を上げていただきました。今度は、長編の映画を一緒に作ってみたいですね。
小林:是非ご一緒したいです。
二人の感覚を刺激する、イマジネーションの根源
山本:今回の展示のオファー、実はすごく曖昧だったと思うんです。お願いしたアーティストのみなさんから何がでてくるか正直想像できなかった。でも完成した小林さんの作品を見て、とてももの静かなのに、パワフルだなとギャップを感じました。そのイマジネーションは、どこから沸き出してくるんですか?不思議な引き出しから色々なものが出てくるように感じます。
若木:僕も本当にそう思います。作品の設営場所に、丸の内ハウスというフロアの中で、ここを選んだ理由も伺いたいですね。
小林:最初は、ライブラリーのスペースでとお話をいただいたのですが、初めて丸の内ハウスを訪れた際、色々な人が目にする、カフェスペースでの展示が面白そうだなと思いました。『HALF LIFE=半減期』というこの作品は、グラフィックデザイナーの田部井美奈さんにグラフィックをお願いして製作しました。半減期とは、放射線量が崩壊に
よってその半分が別の核種になるまでにかかる時間のこと。キューリ婦人が1902年に初めてラジウム226という放射
性物質を、手に持てるような形で取り出すんです。それまで、放射性物質は、物体の形としては存在しなかった。そのラジウム226の半減期は1601年かかるので、つまり1902年に手にしたラジウムが半減期を迎えるのが3503年。すごく先のことですよね。30歳を一世代とすると53代先の娘が生きている時代のことになる。自分の母の母の母が生まれた時に取り出されたものが、自分の53代
先の子供まで残っていることは、どういうことなんだろうと疑問がわきました。ポスターの裏は、今年から1601年間のカレンダーになっています。積み上げられたポスターの厚さは、1601枚の厚さ。一枚ずつ訪れた人に持って帰ってもらうことで、一年ずつを感じても
らう。その厚みが減っていって、最後の一枚になった時に初めて、半分の時代を迎えることになるという作品。
山本:1601枚って、みんなが持ち帰ってもなかなか減らない。その長さをとても感じます。半減期というかラジウムとは、いわゆる放射能のことなんですか?
小林:そうです。キューリ婦人は、放射能という言葉の名付け親。初めて放射能というものを見つけたというか、すごく薄まってあったものを手に取って取り上げた人でもあるんです。
若木さんの作品も、おじいさまの写真を撮って写真集にまとめていたり、時間をテーマにしているように感じています。今、新しい写真集を作っていると伺ったんですが。
若木:祖父の写真は、20年くらいかけて撮り溜めていて、今は幼なじみの写真を撮っています。もう10何年か。やっと今、写真集にできるという感じです。振り返ってみると、あっという間のような感じもするし、写真で見ると合間が抜けているような感じもする。その長い年月を一冊にまとめることが、いいことなのかわるいことなのか、正直わからない。見返したときに、そこに写ってないものがなかったように思えてしまうという不安もある。記憶って年取ると抜けて行くことが多いですから。でも撮られた本人は、写真はあくまで僕の視点で、記憶はちゃんと残っている。写真以外の記憶の方がちゃんとある。そういうのもすごく面白いなと思っていて。これはイマファンドというクラウドファウンディングを利用して、皆様からの支援をいただき、達成したところで、写真を作ろうと思っています。