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VOICE 33. | 2015.November | Toru Shimada

 

VOICE 33. | 島田 亨(楽天株式会社 代表取締役 副社長執行役員) | Photography by Keiichi Nitta | 「リアルな場を、五感を刺激するリッチャーなものにしていかなくてはいけない」
Text_Viola Kimura

 

 

 

今回のゲストは、東北楽天ゴールデンイーグルスの経営責任者として黒字化を達成したことで知られる、実業家の島田亨さん。野球を通じて夢や感動を生み出し、地域の一体感を作り出してきた。現在は楽天の経営者でありながら、若い起業家の育成活動にも携わる。そんな彼は、これまでの人生でどんなことに遭遇して、何を感じてきたのか。日本社会をどう見ていて、インターネット全盛時代のいまなにが必要と考えているのか、話を伺った。

 

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丸の内という街にはどんな印象をお持ちですか?

 

「生まれたのが丸ノ内線沿いということもあって、丸の内という言葉には親近感があります。東京駅というと奈良の祖母のところへ行くときに必ず来る駅で。数年前と比べたらまったく違う街ですよね。あそこの郵便局は外側を残して開発したのは素晴らしいですよね。ヨーロッパだと、歴史のあるものを上手く残しながらリノベーションしていくじゃないですか。そうしたテイストがあると嬉しいですよね」

 

 

 

島田さんの生い立ちについて少し教えてください。これまでの人生で、どんなことを感じてきたんでしょうか。

 

「若年のころに両親が早く別れてしまって家庭が大変だったので、かっこよく言うと、一人で生きていく術を身につけないと、この世の中は冷たいんだと思って育ちました。それを原動力に努力してきて、すごいエネルギーになったので、恐らくその年相応じゃないチャレンジを比較的積極的にやってきました。そうして、もしかしたら普通に環境のなかでは得られなかった経験をしていくなかで、人との繋がりというのがすごく重要なんだなということに気がついて、人をとにかく大事にする、っていうのが自分のほとんど全て。それが自分の人格という気がしています」

 

 

 

人の繋がりの重要性を感じたのは具体的にどんな場面だったんでしょうか。

 

「仕事の人生なかで上手くいくときといかないときとがたくさんあったのですが、大変なときに本気で助けてくれる人たちが大勢いました。ですから僕の友人が事業に大失敗して、数百億円の負債を抱えてつぶしてしまったときは、それを聞いた翌日に現金を包んで持っていきました。それはただの経済的な関係じゃなくて、とにかく彼の家族みんなを食えるようにしなくてはと思って、友だち誘って持っていったんです。そしてその彼がまた助けてくれることもありました。そのような関係を、あまり嫌らしい気持ちなく持てるようになって」

 

 

 

最近の若者が無気力になってきている、なんて言われていますが、どう思われますか。

 

「確かに無気力になっている若者が相対的には増えているのかもしれないけれど、逆にそれを憂いて、これまで以上にものすごく真剣に社会のことや地球のことを考えている若者もいる気がします。うちの会社、英語化を結構真剣にやっているんですよ。三木谷は楽天がこれまでやってきたなかで、英語化が一番の戦略だというように言い切っているんですが、確かに僕もそういう風に思っていて。海外と接することが少なくても、英語をしっかり勉強してきた人というのはものすごく意識が高いんですね。日本の社会や企業、産業を憂いて、日本の企業で世界で本気で戦おうという人たちが入ってきている。そういう若者たちに触れると、僕ら以上に真剣に考えていて、感度の高い人たちが多い気がします。ただ一方で、相対的にそういうことにあまり頓着のない、ある意味刹那的で、自分たちが生きているうちに楽しく生きられればいいや、という人たちも増えてきているんでしょう。より二極化していくような気がします。今のとは全然別の次元ですけど、スマートフォン時代のアプリケーションがこれぐらい流行ると、リアリティを持っていない人たちが多い、とも感じます。スマートフォンがあれば何でもできちゃうという感覚で仕事に臨んだりとか、場合によっては家庭とか生活にもその感覚で臨んでしまう。そういう人が増えているような気がします」

 

 

 

リアリティが欠如している…。そんな時代、何が求められているんでしょうか。

 

「インターネットの流れを止めることは無理ですし、止めちゃいけないと思うんですね。デジタル化してコンビニエントな世界が出来ていきますけど、一方で、だからこそリアルな場というのがとても大事になってくると思います。デジタルの世界がどんどん進むからこそ、リアルな場をもっとリッチャーにしていかなくてはいけない。そう意味でいうと、今までオフ世界でしかなかったものがインタラクティブな機能を持っていくというのはすごく大事。僕がリアルな場に求めたいのは、『五感を刺激する空間』です。デジタルは便利なんですけど、五感を刺激することは出来ないんですよ。見る、聞く、触る、味わう、みたいなのをどう作るか、というのがすごく重要です。例えば僕は、仙台の球場を作っていたときに、この五感をどう刺激するかというのがすごく大事だと思ったので、アメリカの球場やディズニーランドを参考にしました。すごく上手く場がつくられているんですよ。最初に遠くから視覚を刺激して、そうすると音が聞こえて、匂いがだんだんしてきて、たまらなくわくわくしだすと、はじめて結界を越えてその中に入れる。この五感を刺激するプロセスというのが、リアルな場だとできるんですよね。そういうリッチな世界が必要だと思います。この丸の内ハウスもそういう場としてよくやってらっしゃいますけど。人と人が出会ってハッピーになっていくのを後押ししてあげる仕掛けは必要だと思いますね。場と空間だけあってもだめで。 それから、人の心を豊かにするアート。アートの発信というのはもっとやらなきゃいけないですよね。本物に触れる。ぼく家の中がアートだらけなんです。決して高いものを持っている訳じゃないんですけど、ひとつだけ決めているのは、どんなに無名のアーティストだろうが、アジアの新進のアーティストだろうが、一点ものしか買わない、ということ。例外もあるんですけど、基本的には上手かろうが下手だろうが高価だろうが安かろうが、とにかく本物一点を見る。それってリアルな空間でしか絶対できない、すごく大事なことだと思うんですよね」

 

 

 

ご自身の個人的な経験のなかで、五感を刺激された印象的なエピソードは何かありましたか?

 

「ずっと続けているお茶ですね、僕の場合は。お茶はまさに五感をくすぐる仕組みになっている。茶事の一連の流れのなかでは、起承転結の緩急がすごくあるんですよね。それが僕にとっては非日常で、パソコンを通してしか仕事をしない日常からすると、実際に五感を刺激されて精神的にカームダウンされる大切な時間です。はじめて15年ほどになります」

 

 

 

15年前というと投資家として活動されながら世界のさまざまなところへ旅をしていたころでしょうか。

 

「はい、いろいろ行きましたね。ヨーロッパはイタリア、フランス、UK中心に、あとオーストラリア、アメリカ。2ヶ月くらい行って帰ってきたりとか。滞在期間は場所によりますが、生活者の視点とツーリストの視点は全然違いますね」

 

 

 

旅先でビジネスのインスピレーションを受けることはありましたか?

 

「大きいのはデザイン、とか色、とかが、国や民族によって志向性が全然違うのを感じたこと。デザインというのはプロダクトデザインに限りません。デザインって仕事する上でもソリューションとして必ず発生するものですから。バックグラウンドが違う人たちに対して違うアプローチが必要なんだな、というのは感じましたね」

 

 

 

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